日本経済新聞によれば、資源価格の低迷が長引く中、鉄鋼原料で生産企業の寡占化が進んでいるようです。高炉で使う石炭(原料炭)では、豪英資源大手BHPビリトンが炭鉱権益の取得によるシェア拡大に突き進んでいます。長期契約での販売に後ろ向きなBHPがガリバーの地位を固めれば、鉄鋼メーカーの安定的な調達戦略を揺るがしかねないとのことです。
日本の高炉メーカーが固唾をのんで見守る交渉が大詰めを迎えています。それは、英資源大手アングロ・アメリカンが進める資産売却の行方です。資源安で経営不振にあえぐアングロはプラチナやダイヤモンドを中核部門とし、それ以外の石炭などで保有する資産を大幅に圧縮しようとしています。 原料炭の価格は2011年に1トン300ドルを超えましたが、中国経済の成長鈍化で昨年には70ドル台まで急落。業績が急速に悪化した資源メジャーは資金繰りの確保が優先課題となり、金融機関から負債の削減を迫られています。 アングロの売却リストには、日本の高炉が多く使う高品位の原料炭を産出するオーストラリアの優良鉱山が並んでいます。近く買い手企業が決まる見通しで、資金力に勝るBHPが交渉で先行しているとの見立てが多く、日本の高炉各社は神経をとがらせています。 BHPがアングロの資産を手中にすれば、原料炭の海外輸出量の市場シェアの3割強を押さえることになります。日本の高炉が多く使う高品位炭に限ると、「シェアは5割を大きく超える可能性がある」(大手商社)とされます。 新日鉄住金の幹部は「BHPによる買収が成立すれば、自由競争を阻害しかねない。豪州で独占禁止法に抵触する可能性が高く、差し止めを求めて提訴を検討する」と危機感をあらわにしています。 日本の高炉メーカーがBHPを警戒する伏線は、00年代後半にあります。それまで高品位の原料炭の価格はBHPと三菱商事との折半出資会社BMAと、新日鉄住金が年度ごとに価格を決めていました。2社の交渉は「ベンチマーク交渉」と呼ばれる事実上のチャンピオン交渉で、ほかの鉄鋼各社の調達価格の指標ともなっていました。 転機は資源価格が高騰していた08~09年でした。BMAなどは「スポット(随時契約)価格の上昇を長期契約価格にも反映すべきだ」との立場から、3カ月ごとに価格を見直す値決め方式への切り替えを要求しました。年度初めに決めた価格を1年間固定すると、生産業者はスポットの値上がりを享受できないためです。 生産業者の発言力が強まる中、新日鉄住金は受け入れざるを得なかった状況になりました。さらにBMAは新日鉄住金に価格の見直しを毎月ベースに変更するよう求め、3カ月での固定価格では販売しない方針を伝えたということ。ベンチマーク交渉は決裂し、新日鉄住金は新たな交渉相手として、アングロなどとの関係を深めてきました。 BHPがアングロの炭鉱を取得すれば、高炉は調達戦略の見直しを迫られるのは必至です。BHPは透明性の高いスポット取引の価格を指標として育成する目標で、原料炭のほぼすべてを市況連動で販売しています。 寡占化の影響はすでに表面化しています。原料炭のスポット価格は9月、年始から2倍の160ドルに上昇。需給で説明のできない急激な値上がりに、需要家は頭を悩ませています。原料炭を輸入して石炭コークスを生産する日本コークス工業の森俊一郎取締役は「寡占化が進み、価格の振れ幅が大きくなるのは困る」と語ります。 英調査大手ウッドマッケンジーのロビン・グリフィン氏は「今回のアングロの資産売却で、原料炭の市況化が急速に進む可能性がある」と指摘します。日本の高炉各社が3カ月ごとの固定価格での安定調達を維持できるか疑問視する見方もあります。BHPの1強となれば、高炉と長期契約の交渉を担う生産企業が不在となるシナリオが浮上しているためです。 新日鉄住金の幹部は「権益の取得は検討課題となる」と語ります。ただ優良な炭鉱は割安では売りに出ず、権益の取得には巨額の資金が必要です。石炭価格が急上昇するなか、高炉各社の焦燥感は強まっています。 http://www.nikkei.com/article/DGKKZO07050630Z00C16A9EA1000/ この記事を英語で読みたい方は、こちらをご参照ください: http://www.j-abc.com/blog/-japan-steelmakers-fret-over-bhps-control-of-coking-coal
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