日本経済新聞によれば、汚れを分解しながら電気もつくる特殊な微生物である「発電菌」を廃水処理に利用する技術開発が進んでいる。「微生物燃料電池」とも呼ばれ、電気も得られるのが特徴のひとつだ。さらに大幅な省エネや廃棄物の削減という意外な利点も大きく、実用化が期待されている。
開発は新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の事業で、東京大学の橋本和仁教授をプロジェクトリーダーとし、積水化学工業やパナソニック、東京薬科大学、大阪大学などが参加する。樹脂製造など化学工場の廃水処理向けを目指している。 同廃水にはエタノールなど有機物が多く含まれる。従来一般的な活性汚泥法と呼ばれる処理は、微生物に有機物を食べさせて分解する。この微生物は酸素呼吸するため、廃水に空気を供給する曝気(ばっき)や、かき混ぜる撹拌(かくはん)が欠かせない。 曝気・撹拌の装置は多くの電力を使う。処理施設の他の装置なども含め廃水処理には全国で年間約58億キロワット時もの電力が使われており、日本の総電力消費量の約0.6%を占めるという。 さらに、処理では増殖した微生物が最後に死骸となり、大量の汚泥としてたまる。年間約7600万トンもの汚泥が発生しており、全産業廃棄物量の約2割にのぼる。汚泥の処理にもエネルギーが必要だ。 開発している新技術は微生物に食べさせる点は同じだが、「ジオバクター」という変わった微生物を使う。酸素呼吸ではなく、電子を電極に放出することが呼吸に相当し、「電気生成微生物」とも呼ばれる。 新技術はこれで燃料電池の仕組みを作る。ジオバクターを電極のアノード(負極)に生息させると、有機物を分解して電子や水素イオンなどを放出する。電子は別の電極のカソード(正極)まで伝わり、そこで水素イオンや空気(酸素)と反応して水になる。 こうして生まれた電力は処理設備の電源に有効利用できる。さらにここで重要なのは微生物に酸素がいらないことだ。つまり曝気や撹拌がそもそも不要だ。 もうひとつ重要なのは、発電した電気を利用する結果、微生物が自分で使えるエネルギーが減ること。その分、増殖が抑えられ、汚泥も減る。 従来法は必要な電力をすべて外部から供給していた。新技術は曝気や撹拌の電力が不要なうえ、汚泥が減って処理のエネルギーも低減、微生物燃料電池の発電分も利用できる。合計すると従来比80%削減が可能という。 現在、積水化学に設置された装置で実証試験に取り組んでいる。同社はアノード開発にも参加、パナソニックはカソード開発も担当している。 プロジェクトは来年3月までの予定で、実用化はその後に各企業が検討することになるが、3年後が見込まれている。今後は電極の量産化技術開発や大面積化、発電効率の向上、メンテナンス方法の確立などが課題だという。大型装置による実証試験もこれからだ。 「自社工場でまず実用化例を示してもらい、さらに他の化学工場にも普及してくれれば」とNEDOの山野慎司主任研究員は期待する。曝気などが不要な新技術は何もしなくても処理が進むため「停電にも強い。将来は東南アジアなどの途上国でも普及を期待したい」とプロジェクトマネージャーのNEDOの永渕弘人主査は話す。 実験室レベルでは化学工場の廃水とは条件が異なる一般の下水でも処理効果が確認できたという。発電菌が活躍する舞台がさらに広がる可能性も秘めていそうだ。 http://www.nikkei.com/article/DGXMZO90882720U5A820C1000000/ この記事を英語で読みたい方は、こちらをご参照ください。: http://www.j-abc.com/blog/japan-is-moving-closer-to-commercializing-a-wastewater-treatment-technology-that-uses-a-special-species-of-microorganism-to-generate-electricity
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