日本経済新聞によれば、デンソーは今秋、培養した藻から油をつくり、軽油と混ぜて自動車などの燃料に使う試験を始める。藻は成長過程の光合成で二酸化炭素(CO2)を吸収する。化石燃料の一部を補う究極のグリーンエネルギーは実現するのか。オイルショック直後に生まれた構想から半世紀。日本企業の地道な研究成果が実を結ぼうとしている。
デンソーは現在、実験に向けて善明製作所(愛知県西尾市)内で、「シュードコリシスチス」と呼ばれる藻を大量培養している。この藻を乾燥させて油を抽出し、数十リットルの藻由来の軽油を生産する。 作った軽油を石油由来の軽油と混ぜて、今秋から乗用車などのエンジンで実際に使えるかを確認する。通常の軽油と藻から抽出した軽油の配合比率なども探る。 デンソーが藻の培養池などの設備を設けたのは2010年で、企業としてCO2排出量削減にどのように貢献するかを検討したのがきっかけだった。 そのため工場で出るCO2を池に送り込み、光合成のエネルギー源としている。CO2や栄養分の与え方などといった培養環境を繰り返し試してきた。 渥美欣也新事業推進室事業企画担当部長は「今までは培養の研究だった。今春からは油をとり、最終的に使う試験までやって機能を確認する」と話す。将来のディーゼルやジェット燃料への活用に向け、使用試験の段階に入る。 ただ、実用化に向けてクリアしなければならない課題もある。現在、乾燥させたシュードコリシスチス3キログラムから取れる軽油は800ミリリットル。油の生産効率を上げ、コストを下げるには藻の培養のスピードを上げるか、あるいは藻がため込む油の量を増やす必要があるからだ。 善明製作所の池の容積は現在3万3000リットル。デンソーは将来、合計1~2ヘクタールの面積の池での培養を始めるため、まず九州に新たな拠点を設ける計画だ。18年度までに大規模プラントでの技術を確立したい考えだ。 デンソーは藻自体の品種改良にも取り組む。シュードコリシスチスの増殖速度と油の含有量をそれぞれ3倍にすることを目標に、現在、基礎研究所(愛知県日進市)で研究開発を進めている。デンソーでは今後の事業展開について、研究開発や今回の燃焼試験などを生かしながら、「企業に培養などの技術を供与し、ライセンス収入を得るビジネスを考えたい」(渥美氏)という。 自動車電装品で独ボッシュと世界市場で競うデンソー。温暖化など環境対策にもつながる新たなエネルギーの開発という新たな顔が加わることになりそうだ。 地球上に存在する藻は5万種類以上と言われる。藻は光合成で育ち、体内に油や栄養素をため込む。大気中のCO2を吸収したうえ、便利な素材を生み出す一石二鳥の生き物だ。この「グリーン&クリーン」な素材を工業化しようと狙うのはデンソーだけではない。IHIやユーグレナ、花王など活用を狙う企業の最先端の動きを追う。 国土交通省と経済産業省は7月、2020年の東京五輪・パラリンピックの開催を機に、バイオ由来の燃料で航空機を飛ばすため検討会を立ち上げた。藻から作る油はその有力候補の1つ。藻で空を飛ぶ――。こんな構想が現実味を帯びてきた。 「MOBURA(モブラ)」。IHIは同社が生産する藻由来の油をこう名付け、13年12月、商標を登録した。 IHIは今年3月末、国内最大となる1500平方メートルの藻の培養池を鹿児島市に建設し、大量培養を開始した。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託事業で、5月までに当初予定していた量の収穫を実現。同社の従来の培養池の15倍の大きさで、成清勉新事業推進部次長は「培養池が大きくなると藻が均一に成長しなくなるのではないかと危惧したが、順調にきている」と満足げだ。 このプラントの成功は、IHIがMOBURAを商用化するための第一歩となる。このプラントで培った技術を進化させジェット燃料の原料となるMOBURAの大量生産を目指す。 IHIは現在、東南アジアなど数カ所で培養試験を始めており、20年度に数百ヘクタール規模の商用プラント運用の技術確立を目指す。 IHIが藻の大量培養法の開発に着手したのは11年。ジェット燃料に狙いを定め、選んだのは「ボツリオコッカス」と呼ぶ藻だ。ボツリオコッカスから取れる油は炭化水素で石油に近い組成。このためジェット燃料にするケロシンへと精製しやすい利点がある。 経産省と国交省が設置した「道筋検討委員会」は20年にバイオジェット燃料を使った商用フライトや供給網確立を目指す。委員会にはIHIやユーグレナのほか日本航空や全日本空輸で構成する定期航空協会(東京・港)などが参加する。 五輪開催に合わせて国産バイオ燃料が実用化できれば日本の技術力のアピールになる。航空輸送量は増える中でCO2排出を増やさないようにするには、生産時にCO2を吸収するバイオジェット燃料を使うしかない。欧米の航空大手もバイオジェット燃料での飛行を始めている。 沖縄県石垣島。石垣空港から10分ほどバスで走り、サトウキビが生える路地を入って歩くとユーグレナの生産技術研究所にたどり着く。門を入ってすぐ左手にまん丸のプールがいくつも見えてくる。ユーグレナはこのうちの1つで、今年3月からジェット燃料向けのミドリムシの試験培養を始めた。ジェット燃料に最も適したミドリムシの選定や培養方法を研究しているのだ。直径30メートルの円状のプールには、真ん中を支点にタイヤ付きの撹拌(かくはん)機がゆっくりと回っている。「シンプルだが、随所に工夫がある」と中野良平生産技術研究所所長は話す。 ミドリムシは藻としては珍しく、細胞を保護する固い細胞壁がない。このため細胞を包んでいる柔らかい膜が破れると死んでしまう。デリケートなミドリムシに均等に太陽光を当てたり、油をため込むための栄養分を与えたりしながら増やすノウハウが必要だ。 ユーグレナは15年中にミドリムシから油を取り出し、バイオ燃料として使えるか試験する計画。中野氏は「20年ごろまでに3000平方メートル級のプールでの安定培養技術を確立したい」と話す。 共通する最大の課題は、現在1リットル100円程度のケロシンの数倍かかるコストだ。IHIはバイオベンチャーのちとせ研究所(川崎市)の協力を得てボツリオコッカスを品種改良した。しかしこれらの技術を使った鹿児島の大規模池でもケロシン換算のコストは1リットル500円。成清氏は「実用化にはさらにブレイクスルーが必要」と話す。 実は藻の活用を目指す研究は昔から行われている。オイルショックが契機の1974~93年に実施した「サンシャイン計画」、環境問題への対策として93~2000年に実施した「ニューサンシャイン計画」のなかで、CO2対策として藻の活用が研究された。 「しかしどちらも事業化には結びつかなかった。その意味では一歩進んだ」。筑波大学藻類バイオマス・エネルギーシステム開発研究センター長の渡邊信同大教授は今回の道筋検討委員会の設置を評価し、「行政が時期を明示し、政策を示したのは大きい」と期待を示す。半世紀越しの夢の実現に向けて官民挙げて機運が盛り上がる。 http://www.nikkei.com/article/DGXKZO90622700X10C15A8X11000/ この記事を英語で読みたい方は、こちらをご参照ください。: http://www.j-abc.com/blog/-japanese-companies-eye-algae-for-green-energy
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