日本経済新聞によれば、家電や日用品の生産を国内に戻す動きに変調が見え始めました。アジア各国とのコストの差が縮まってこれまで国内回帰が広がりつつありましたが、円高で再び国内で生産することの割高感が強まっているからです。ただ海外の消費者の間では「日本製」への評価が高く、現地生産か国内生産か、判断はさらに難しくなってきました。
「国内の生産比率を増やす考えはない」。大半の製品を中国で生産する生活用品大手の担当者は言い切ります。こうした判断が出るのは、日本と海外の製造コストの差が再び広がっているためです。 三菱UFJモルガン・スタンレー証券はアジア・オセアニアの20カ国の製造原価を調べました。2012年は平均で日本の74%でしたが、15年には80.6%まで上昇しました。ところが17年は78.6%と再び差が拡大に転じました。 背景にあるのは為替です。12年に1ドル=80円を上回ることもあった円相場は、13年に始まった日銀の異次元金融緩和で状況が一変。15年6月には125円台まで円安になりました。日本からの輸出競争力が高まる一方、海外子会社が日本向けに出荷する「逆輸入」は円建てコストがかさみました。 アジアの人件費の上昇も重なり生産を国内に戻す企業が増えました。JVCケンウッドは15年末に国内向けのカーナビの一部をインドネシアや中国から長野県伊那市の工場に移しました。こうした動きは17年度に製造業の雇用者数が1千万人の大台を回復する一因になりました。 16年ごろからは環境が変わり始めました。中国経済の減速や英国の欧州連合(EU)離脱決定を受け、円相場は段階的に水準を切り上げてきました。18年は112円台で始まりましたが、3月には104円台まで円高が進みました。 人件費も経営者の判断に影響を及ぼします。人手不足などを背景に18年の賃上げ率は20年ぶりの伸びを記録しました。賃金の引き上げは景気回復に欠かせませんが、収益力に勢いがないと継続は難しいのです。 時を同じくして、企業は海外生産に再び目を向け始めました。経済産業省によると日系の海外法人による逆輸入の売上高は17年10~12月で270億ドル。東日本大震災による国内の供給網寸断や円高で過去最高となった11年7~9月(282億ドル)以来の水準です。15年以降、ほぼ250億ドルを下回ってきましたが、再び増え始めました。 内閣府が1月に上場企業に実施したアンケート調査によると、5年後の海外生産比率の見込みは25.0%。15年1月の調査(26.2%)をピークに下がっていましたが、3年ぶりに上昇に転じました。 三菱UFJモルガン・スタンレー証券の宮崎浩氏は「円高が進めばアジアとのコスト格差が今後、一段と広がっていく」と指摘。「国内の設備の稼働率が下がり、企業が増産に向けた投資を抑える可能性が高まる」と景気への影響を懸念します。 国内回帰の動きは途絶えるのか。先行きを占う手がかりはまず生産現場の改革にあります。人工知能(AI)などを駆使した生産ラインの自動化です。 カシオ計算機は世界で販売する低価格帯の腕時計の国内生産比率を高めます。20ドル前後と安い製品を国内で作っても競争力を出せるようにするため山形県の工場で自動化投資を進めます。製造コストを日本の4分の1のタイと同等にできるということです。 もう一つの要因は、海外の消費者です。資生堂は国内で36年ぶりとなる新工場の建設を決めました。17年度には訪日客数が3千万人近くまで増加するなど、改めて日本製の品質への関心が高まっています。海外からの人気にこたえるためにも国内で生産を増強することが有効だと判断したということです。 最近は円高に一服感も出ています。日本経済研究センターの佐々木仁氏は「アジアでも人件費が上がっている。今の為替水準なら海外移転をさらに加速させるほどではない」とし、「生産ラインを刷新していけば、国内でも労働生産性はもっと高められる」と指摘します。 為替や人件費から、製造技術の進化や消費者の嗜好まで。複雑な方程式の解を見つけて適切な経営判断をできるかが、成長力の明暗を分けることになります。 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO29920280X20C18A4SHA000/?n_cid=SPTMG002 この記事を英語で読みたい方は、こちらをご参照ください: https://www.j-abc.com/blog/japan-incs-shift-to-domestic-production-interrupted-by-strong-yen
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