本日付の日本経済新聞によれば、5月19日の産業競争力会議で示された今年の成長戦略の素案には、耳慣れない2つの表現が並んだようです。「目標逆算ロードマップ方式」と「事業者目線での規制・行政手続きコストの削減」です。
いずれも規制改革をより効果的に進める、いわば「規制改革」の改革といえるものです。電力自由化や農協改革といった具体的な規制改革の目玉が欠ける中で、政府が新たな手法を打ち出す理由は何か。これまでの改革の手詰まりとともに、日進月歩で進む技術革新に制度整備が追いつかないという危機感が底流にあるようです。 起点は安倍晋三首相の一言でした。「第4次産業革命はスピードが勝負。早速、この場で具体的な方針を決定する」。昨年11月5日の官民対話。ロボット開発ベンチャーの谷口恒ZMP社長らから自動運転の実現に向けた規制緩和を要望された首相は会議をこう締めくくりました。「20年の東京五輪での無人自動走行による移動サービスや、高速道路での自動運転が可能になるようにする」 自動運転は米グーグルの開発参入によって、早期の実用化に向けた国際競争が激しくなる一方で、国内の制度整備に向けた検討作業は遅れていました。それが首相が実現時期を明言したことで、関係省庁の検討が加速。警察庁は4月、自動運転車が公道を実験走行する際の指針案を公表しました。 まず長期的な望ましい将来の姿を官民で共有し、そこから遡って必要な規制改革を見定めます。「目標逆算ロードマップ方式」の原型が、自動運転の成功体験によって固まりました。 成長戦略の取りまとめに関わった経済官庁の幹部は「この手法は使えると思った」と振り返ります。素案では「第4次産業革命は技術革新の予見が難しく、スピードが重視される時代。瞬時の遅れは命取りにもなりかねない」と従来の規制改革の限界を強調。あらゆるモノがネットにつながる「IoT(インターネット・オブ・シングス)」や人工知能(AI)など、規制の巧拙が市場拡大のスピードを分ける分野で活用していく方針です。 もう一つの目玉である事業者目線での手続きやコストの削減の原型は欧州にあります。企業が余計な手間をかけている細かな規制や行政手続きを数値に換算した上で期限を区切った削減目標を設定。結果も公表し、達成度合いを検証する仕組みです。 英国やドイツ、オランダではいずれも数年間に20%を超える無駄な手続きを減らしました。許認可申請や検査や審査など様々な手続きに必要な人員や時間を本業に回せるとなれば日本に進出しようとする海外企業だけでなく、国内企業にも朗報です。 ただ、こちらの手法は決定が難航しました。目標値と時期が盛り込まれれば、中央官庁は自らの力の源泉でもある規制を多く手放さなければならないためです。 4月4日に経済財政諮問会議の民間議員が「今後1年以内に行政サービスの質と効率を2割引き上げるべきだ」と提言すると、霞が関内部で「どのようにコストを算出するのか」「手法の有効性が疑問だ」といった反対論が噴出。同25日の諮問会議の事務局ペーパーでは目標値と時期が抜け落ち表現は大幅に後退しました。 結局、19日の産業競争力会議では、まず外国企業の対日投資に絡む規制・行政手続きの抜本的な簡素化について「1年以内に結論を得る」ことになりました。会議では複数の委員から「スピード感を持って進めてほしい」との意見が相次いだものの、具体的な目標値の記述はなく、どこまで効果を上げるかは不透明のようです。 目標逆算ロードマップ方式についても、目標の設定を誤れば、規制緩和の内容もピンぼけになりかねません。政府が新たにつくる第4次産業革命の官民会議が産業界を通じて、世界の最先端の動向を吸い上げ、制度改革にすぐに反映できるかどうかがカギとなります。 世界では民泊やライドシェアなど「シェアリングエコノミー」と呼ばれる新サービスが広がっています。技術革新を生かして国境を瞬く間に超える新たなサービスの拡大の速さに対応できる、スピード感のあるルールづくりが政府に求められています。 http://www.nikkei.com/article/DGXLZO02689770U6A520C1EA1000/ この記事を英語で読みたい方は、こちらをご参照ください: http://www.j-abc.com/blog/-japan-eyes-new-path-to-structural-reforms
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